世界秩序が変わるとき要約・解説|日本復活のチャンス【新自由主義からのゲームチェンジ】
「世界秩序が変わるとき 新自由主義からのゲームチェンジ」の要約と解説です。著書の齋藤ジンさんが、日本経済の現状と未来、日本経済が今後どのように好転していくのかとその理由、そして世界秩序の変化についてまとめています。日本経済の一般的な現状認識は、少子化の進行、税金や社会保険料の高さから、日本経済に希望を持てない人が多いと思いますが、著者は、現在の世界が「大転換期」にあり、日本はこの変化の中で「大きな復活のチャンス」を迎えていると主張しています。

日本経済が好転する理由
日本経済が好転する主要な理由として、アメリカの対中戦略における日本の重要性が挙げられています。
アメリカは「アメリカ・ファースト」を掲げ、自国の産業と雇用を最優先しています。しかし、長期的な視点で見ると、アメリカが中国に経済的に劣勢に立たされないためには、日本の協力が不可欠であると認識されています。つまり、日本経済が好転するのは、アメリカが中国に負けないために日本との協調を必要としているから、という側面があります。
アメリカと中国
アメリカは現在も世界最大の経済大国ですが、中国がその経済力を急速に拡大し、アメリカの覇権を脅かす存在となっています。アメリカと中国は、経済、軍事、技術のあらゆる面で激しく対立しており、まるで冷戦のような状態にあります。関税の掛け合いなどもその一例です。アメリカ企業は、中国をリスクと見なし、他のアジア諸国への生産拠点移転を検討しています。その移転先候補として日本が浮上しており、実際に中国への直接投資が大幅に減少する一方で、日本への投資が注目され始めています。
- 二分される世界
経済戦争は、一国だけで勝利することは困難であり、信頼できるパートナーの存在が不可欠です。世界は現在、アメリカを筆頭とする民主主義国(日本、EU、オーストラリア、韓国、インドなど)と、中国を筆頭とする国々(ロシア、イラン、北朝鮮など)の二つの陣営に分かれつつあります - 日本とアメリカの関係
日本は政治的に安定しており、高い技術力を持っています。そして、日本は中国に近く、在日米軍基地が存在するため、アメリカが中国を牽制する上で極めて重要な拠点となります。
日本経済の歴史的変遷
日本経済は、過去にもアメリカの国際戦略に大きく左右されてきました。
冷戦期(1947年~1991年)
冷戦時代、日本はソ連の近くに位置していたため、ソ連の軍艦が太平洋に自由に出るのを防ぐ砦のような役割を担っていました。アメリカは、資本主義の優位性を世界に示すため、日本を経済的に成長させることを支援しました。技術支援や資本提供など、ある程度の優遇措置が取られました。このアメリカの支援もひとつの要因となり、日本経済は成長を遂げました。もちろん、「冷戦戦略上の必要性からアメリカが自国市場をある程度、日本製品に開放することを認めた」「朝鮮戦争特需で需要が急増した(戦争で儲けた)」という理由もありますし、日本が大きな経済成長を目指していたのは間違いありません。
ソ連崩壊後(失われた30年)
- 特別待遇の終了
1991年にソ連が崩壊し冷戦が終結すると、アメリカは日本への特別待遇を終了しました - 経済的ライバル視
日本が世界第2位の経済大国となっていたため、アメリカは日本を経済的ライバルと見なし、叩き始めました。競合国のGDPがアメリカの50%近くに迫ると、アメリカはその国を叩くという歴史的パターンが指摘されています - 経済的圧力
1991年頃から、アメリカは日本車や半導体への制限・関税、円高誘導など、様々な経済的嫌がらせを行いました - 「失われた30年」への突入
その結果、日本経済の成長は鈍化し、「失われた30年」と呼ばれる長期停滞期に突入しました - 日本の体質も一因
不況のきっかけはアメリカの圧力でしたが、日本が景気悪化時にも正社員をリストラしなかった体質も、不況を長期化させた一因とされています。しかし、この体質のおかげで、アメリカや韓国と比べて経済格差が少ないという側面もあります
中国の台頭
アメリカは新自由主義とグローバリズムを推し進めました。その結果、中国の台頭を促進することになります。
新自由主義とグローバリズムとは?
- 新自由主義
1980年代に生まれた考え方で、国や政府が企業や個人に口出しせず、自由な競争に任せれば経済はうまくいくというものです。政府の役割は国防や警察に絞られます - グローバリズム
2000年代から生まれた考え方で、国境を越えて人件費の安い場所で生産を行うというものです
- 新自由主義の副作用
能力の高い者や強い者だけが勝ち続け、弱い者が脱落しやすいという現象を引き起こしました。「自由」と「自己責任」が表裏一体となり、「貧乏なのはお前のせい」「うまくいかないのはお前が悪い」という考え方が広まり、アメリカ国内の分断が加速しました。実際、アメリカでは上位10%の富裕層が資産の79%を所有しています - グローバリズムの副作用
ユニクロやアップルのような大企業が人件費の安い中国にばかり工場を建設した結果、アメリカや日本から製造業の雇用が中国に流出しました
アメリカの誤算
アメリカは2001年に中国を世界貿易機関(WTO)に加盟させました。その後、中国は経済成長を成し遂げます。アメリカは、中国のWTO加盟により以下の二つを期待していました。
- 中国との貿易が拡大し、アメリカ経済がさらに成長する
- WTOという国際ルールに中国が加わることで、中国もいずれは民主的な国に変わる
しかしながら、アメリカの期待に反し、中国政治の民主化は進みませんでした。中国は市場を取り入れつつも政治的には権威主義を維持し、逆に国家主導の資本主義モデルで米国産業に挑戦することになります。企業は、人件費の安い中国に投資を集中させ、その結果、中国はアメリカの経済を脅かす世界第2位の経済大国にまで成り上がります
新しい世界秩序
アメリカは、自らが作り上げてきた経済秩序が中国に有利に働いたことを認識し、その転換を図ろうとしています。
アメリカの戦略転換
「自由競争」と「安い国で作ろう」という新自由主義とグローバリズムの考え方は、結果的に中国に有利に働きました。アメリカは、自らが作り上げてきたこれらの価値観が中国に有利に働いたことを認識し、現在、世界秩序のルールを変えようとしています。
新しい世界秩序の価値観
これからの世界は、以下の二つの価値観にシフトしていくと予測されています。
- 「国が経済を全面的に支援する」
政府が経済活動に積極的に介入し、産業を支援するようになります - 「信頼できる国とだけ繋がる」
安い国での生産から、信頼できる国での生産へと流れが変化していきます
脱中国における日本の役割
完全に中国から生産拠点を撤退させることは難しいものの、中国への依存度を減らす方向へ確実に進んでいます。特に半導体、軍事部品、AI関連といった重要な製品については、「脱中国」の流れが強まり、「日本で作る」という方向へ加速しています。この変化を象徴するのが、日本政府が巨額の資金を投じて主導する半導体製造企業ラピダスや、台湾のTSMCといった企業です。ラピダスはアメリカのIBMから最先端技術の支援も受けています。また、2019年以降、アメリカはTikTokやHuaweiなどの中国ハイテク企業への締め付けを強化し、中国への半導体輸出も制限しています。これは、信頼できない中国に最先端技術を渡したくないというアメリカの意図の表れです。
中国から徐々に抜け出す時期において、日本はアメリカにとって経済的なパートナーとして選ばれています。
日本国内で起こる変化
世界秩序の変化は、日本国内にも大きな影響をもたらします。
人材不足による賃金上昇とインフレ
- 賃金上昇の可能性
日本では人材不足が深刻化しており、労働者の数が少なくなれば、賃金が上昇する可能性が高いです。企業は人材確保のために、給料を上げざるを得なくなります - インフレの時代
賃金が上がれば、企業のコストも上がり、商品の価格も上昇します。しかし、それ以上に給料が増えれば、人々は購買意欲を高め、経済が活性化します。このようにして、物価が少しずつ上昇し、日本経済は回復していくと予測されています
日本では、賃金の安い会社で働く人が減り、人手不足がますます深刻化していきます。給料を上げることができない会社やブラック企業は、自然と淘汰されていくことになります。実際に、近年日本では企業の倒産が増加傾向にあります。会社が潰れても、現在は高待遇の求人が多く存在するため、労働者は比較的容易に次の職場を見つけることができるでしょう。
AI導入について
アメリカから半導体製造企業が日本に続々と進出しています。日本はもともと労働人口が少ない国であるため、AIを導入しても「雇用が奪われる」といった大規模な騒ぎにはなりにくいと考えられます。日本は着実に「賃金が上がる時代」への土台を整えつつあります。
まとめ
現在、世界は大きな転換期を迎えており、日本には大きな復活のチャンスが訪れています。著者は日本には今、追い風が吹いていると考えており、現状を悲観するのではなく、このチャンスを活かすために前向きに考え、行動していくことが重要だと説いています。
なぜ日本にチャンスがあるのか?
- アメリカが中国に覇権を奪われないために、強い日本を必要としているからです(アメリカは、覇権国家としての地位が脅かされると、常に2位の国に圧力をかけてきた歴史があります)
- アメリカは常に自分たちに有利になるように国際的なルールを変えてきました。そして今、アメリカは中国に抜かされないために、世界秩序のルールを変えようとしています。
世界秩序はどのように変わるのか?
- 「新自由主義」と「グローバリズム」という価値観から、「国家が産業を支援する」そして「信頼できる国とだけ繋がる」という時代へと変化させようとしています
- この新しい時代において、「信頼できない国」は中国であり、「信頼できる国」は日本となります
- そのため、半導体のような重要な製品は「日本で作る」という方向へ加速しています
日本国内ではどのような変化が起こるのか?
- 人材不足により賃金が上昇し、インフレの時代が到来する可能性が高いです
- 賃金を上げられない企業は淘汰されていきます
- ラピダスのような、国が支援する企業が増加します
著者紹介
斎藤ジンさんは、ワシントンで投資コンサルタントとして活動しており、その経歴は非常に多岐にわたります。
- 職歴
世界中の政府や機関投資家に対し、30年近くにわたり資産運用の助言を行ってきました - 顧客例
ジョージ・ソロス氏や、トランプ政権で財務長官を務めたスコット・ベッセント氏など、世界的に著名な投資家や要人への助言実績があります - 成功事例
2012年の秋には、斎藤氏の助言によりジョージ・ソロス氏が約1500億円もの利益を上げたこともあるそうです