文豪みたいな文章を書く方法・太宰治と村上春樹の文体模写
WEBで使える無料ツールを使って文体を模倣する方法を紹介します。とりあえず写経のようなことをするよりも、文の構造を理解した方が応用がききそうです。
やり方としてはまず、文の修飾関係と単語の品詞を明らかにします。そして、単語を入れ替えたり、文節を省いたりして、文豪風の文章にします。以下では、太宰治と村上春樹を例として、文体を模写してみたいと思います。
文体模写の例(太宰治)
満月の宵。光っては崩れ、うねっては崩れ、逆巻き、のた打つ浪のなかで互いに離れまいとつないだ手を苦しまぎれに俺が故意と振り切ったとき女は忽ち浪に呑まれて、たかく名を呼んだ。
抜粋――太宰治:葉
満月の宵。みせびらかすように開き、閉じてはまた開き、みせつけ、もてあそぶようにして聖典をわざとらしく悪魔が捨てたとき天使は倒れて、ひくくまじない叫んだ。
文体模写の例(村上春樹)
私の耳に届くのは、ワイパーの劣化したゴムが立てるかすれた音と、タイヤが濡れた路面を進む、しゃーっという途切れのない音だけだった。
抜粋――村上春樹:騎士団長殺し
そこに響くのは、どこか聞き覚えのあるかすれた声と、可愛い子供のやかましい途切れのない声だけであった。
文体模写の手順
はじめに、文の係り受け解析で、文の構造を明らかにします。文の修飾関係などを明らかにすると、文を理解しやすくなります。
係り受け解析の紹介と結果
「ふりがな文庫ラボ」というサイトで係り受け解析が実行できます。文字数は500文字以内に制限されていますが、結果が図で表示されるため、とても簡単に文の構造を可視化できます。なお、解析には、CaboChaという有名な係り受け解析ツールを使用しているようです。
上の画像が太宰治の一文、下の画像が村上春樹の一文です。
ふりがな文庫ラボの使い方
解析したい文章を入力し、<実行>のボタンを押すと、解析結果が画像で表示されます。
下の画像は、使用する辞書は<JUMAN辞書>(村上春樹はIPA辞書)、ノード向きは<左->右>、形態素分離文字</>、文節番号位置<上>、句点で分割<しない>、テキスト表示<する>、という設定にしています。この設定については、表にもまとめております。
項目 | 設定 |
---|---|
使用する辞書 | JUMAN辞書/IPA辞書 |
ノード向き | 左->右 |
形態素分離文字 | / |
文節番号位置 | 上 |
句点で分割 | しない |
テキスト表示 | する |
文の構造の分析
構造解析の結果をもとに文の構造を分析します。
太宰治の場合、注目するのは文節番号19の「振り切った」です。画像をみると、この文節をたくさんの文が修飾しています。つないだ手を振り切った、苦しまぎれに振り切った、俺が振り切った、故意(わざ)と振り切った、です。
この「振り切った」を幹のように捉えると、文章の構造がわかりやすくなります。
文節番号27は「呼んだ。」です。これも修飾関係がやや複雑です。振り切ったとき呼んだ、女は呑まれて呼んだ、高く呼んだ、名を呼んだ、です。
例題とした文章には長い一文がありますが、簡潔に表すと「振り切ったとき呼んだ。」になります。
村上春樹の文章の場合は文節番号18となります。「音だけだった。」という文を、修飾しているという構造がよくわかります。
Web茶まめで形態素解析
続いて、文を構成する単語の品詞などを調べます。調べなくても品詞がわかる場合は、必要のない工程です。
どちらのサイトも文章の形態素解析をしてくれます。文を入力すると品詞ごとにばらばらにして一覧表を表示してくれます。Web茶まめは辞書を選択する必要があります。UniDic-MeCabは比較的選択肢が少ないので、使いやすいかもしれません。
形態素解析をすると、「満月」は名詞、「の」は助詞、「宵」は名詞、など、品詞や語種がわかります。
「音だけだった」は、音が名詞、だけは助詞、だったは、だ、と、たに別れ、いずれも助動詞となります。
連想類語辞典で文の内容を変更
文の修飾関係と品詞がわかったので、実際に、文を真似してみます。構造分析で調べた幹、「振り切った」や「呼んだ」などを中心にとらえ、文章を変えていきます。なお、振り切った、は「振り切る」という動詞と助動詞「た」の組み合わせです。
振り切る、のままで問題ないですが、言葉を変更する場合、もしくは、いい単語が思い浮かばない時は、上記のサイトが参考になります。入力した言葉について、連想語や類語の一覧を表示してくれます。
ここでは、「振り切ったとき呼んだ」を「捨てたとき叫んだ」にします。
叫んだを修飾している文節は、「たかく」、「名を」、「女は呑まれて」です。このままくっつけても問題ないですが、天使は倒れてひくくまじないを叫んだ、にします。
捨てたときも同様に、わざとらしく悪魔が捨てたとき、とします。「故意(わざ)と」は省略しました。
「苦しまぎれに俺が故意と振り切ったとき女は忽ち浪に呑まれて、たかく名を呼んだ」は、「わざとらしく悪魔が捨てたとき天使は倒れて、ひくくまじない叫んだ」という文となりました。文章の構造は維持していますが、内容は変わっていると思います。
文が長いので、ストーリーを考えるのが難しいですが、「捨てた」を修飾するような文章を考えていきます。そうすると最終的には次の様な文になります。
「満月の宵。みせびらかすように開き、閉じてはまた開き、みせつけ、もてあそぶようにして聖典をわざとらしく悪魔が捨てたとき天使は倒れて、ひくくまじない叫んだ。」
村上春樹についても、同様にして文章を模写していきます
私の考えた文章は、「そこに響くのは、どこか聞き覚えのあるかすれた声と、可愛い子供のやかましい途切れのない声だけであった。」となりました。
まとめ
小説などを書いている方は、いい文章に出会ったとき、それを真似してみたくなると思います。私も、冒頭の太宰治の文章が好きで、真似するために、このような方法を試してみました。漠然と書き写すよりは構造を理解したうえで、文を書き換えてみると、身に付く気がしています。