【まとめと解説】3か月でマスターするアインシュタイン|NHK

2025年7月から放送されているNHK Eテレの番組『3か月でマスターするアインシュタイン』は、天才物理学者アインシュタインの理論を、東京学芸大学の小林晋平教授が、お笑いトリオ「3時のヒロイン」の福田麻貴さんと共に、楽しく、わかりやすく解き明かしていく番組です。このページでは、各話の内容をまとめつつ、専門用語の解説を交えながらご紹介していきます。

第1回:初めまして!アインシュタイン

第1回では、「相対性理論」の入り口とアインシュタインの人物像が紹介されいました。1905年、アインシュタインが特許局に勤める無名の青年だった頃に発表した5つの論文は、物理学の常識を覆す画期的なもので、のちに1905年は奇跡の年と呼ばれることになります。番組では、福田さんが自転車に乗ってスタジオを走り回り、「速く動くものほど時間の進み方が遅くなる」という特殊相対性理論の一端を体感しました。また、箱の上に乗り、重力が弱い場所では時間の進み方が少し早くなるという一般相対性理論の効果も体験しました。

  • 特殊相対性理論
    重力の影響を考えない特殊な状況下で、時間と空間は観測者によって変化するという理論です。「光の速さだけは誰から見ても一定である」という光速度不変の原理に基づいています
  • 一般相対性理論
    特殊相対性理論に重力の影響を加えた理論で、重力とは「時空の歪み」そのものであると説明します。 物質が存在することで時空が歪み、その歪みに沿って物が動くことが重力の正体だとしています

アインシュタインが多用した「思考実験」も紹介されました。頭の中で特定の状況を想像し、物理法則の本質を探るこの手法は数々の発見の源となりました。特に有名なのが「エレベーターの思考実験」で、自由落下するエレベーターの中では重力が消えるという気づきは、一般相対性理論へと繋がる重要なひらめきでした。アインシュタインは1922年に来日し、奈良に2泊3日滞在したという意外なエピソードも紹介され、科学者としてだけでなく、人間らしい一面も垣間見えました。

第2回:光より速いものはない?

第2回のテーマは「光」。自然界で最も速いとされる光の速さは、地球の移動速度に関係なく常に一定であるという実験結果を根拠とした「光速不変の原理」が、アインシュタインの思考の出発点でした。番組では、アインシュタインが16歳の時に行った「光速で走ったら鏡に自分の顔は映るか?」という思考実験が紹介されていました。答えは「顔は映る」で、これは光の速さに何を足しても光速を超えることはないという「相対論的速度の加算」に基づいています。

  • 光速不変の原理
    どの慣性系(等速直線運動をしている系)からみても、真空中の光の速さは常に一定であるという原理です。この原理は、アインシュタインが特殊相対性理論を構築する上での根本的な仮定の一つとなりました
  • 慣性系
    ここでは、「静止している」か、「一定の速さで、まっすぐ進んでいる」場所や乗り物のことです。加速しておらず、回転もしていない、物理法則がシンプルに成り立つ特別な空間と言い換えることもできます。物理の法則がとてもシンプルに成り立つ、いわば「理想的な舞台」のようなものです

第3回:タイムマシンは夢じゃない?

第3回では、「タイムマシン」をテーマに、時間旅行の可能性を探りました。特殊相対性理論によれば、光速に近い速さで移動すると 時間の進みが遅くなるため、未来へのタイムトラベルは理論的に可能とされています。

一方、過去へのタイムトラベルは、親を殺してしまうと自分が存在しなくなるという「親殺しのパラドックス」に代表される因果律の問題から、現時点では不可能とされています。また、速く動く物体は、進行方向に縮んで見えるという「ローレンツ収縮」という現象も紹介されました。これは、観測者によって「同時」の捉え方が異なる「同時の相対性」によって説明されます。

  • 因果律
    原因と結果の関係性のことで、原因は必ず結果に先行するという考え方です。過去へのタイムトラベルは、この因果律を破綻させる可能性があり、様々なパラドックス(矛盾)を生じさせます。

ローレンツ収縮

アインシュタインの相対性理論の大前提である「光の速さだけは、誰から見ても絶対に変わらない(秒速約30万km)」という宇宙の絶対的なルールを守るために、空間の方が私たちの常識を超えて融通をきかせてくれる驚くべき現象といえます。このルールと、私たちの常識「速さ = 距離 ÷ 時間」を両立させようとすると、不思議なことが起こります。

天井と床が鏡になっている、透明なロケットを想像してみてください。

  • 止まっているロケット
    ロケットの中で光(レーザー)を床から天井へ向けて発射します。光は床と天井の間をまっすぐ進みます。この距離を測っておきます
  • 飛んでいるロケット
    このロケットがすごい速さで移動しています。ロケットの中で床から天井へ向けて光を発射しても、距離は変わりません
  • 飛んでいるロケットを眺めている場合
    すごい速さで移動しているロケットを外から誰かがみているとします。ロケットはもの凄い速度で横切っていきます。このとき、ロケットの中の光はどう見えるでしょうか。床から発射された光が天井まで届く間に、ロケットは動いているので、光は斜めに進んでいるように見えます。まっすぐ往復するより、明らかに長い距離を進むことになります

光の速さは一定です。しかし、ものすごい速さで動いている物体について考えた場合、速さは同じなのに、進んだ距離が違うということになります。これは言っていることが滅茶苦茶です。この矛盾を解決するために 、宇宙はとんでもない方法で辻褄を合わせます。つまり、時間と距離の方を変化させます。「速さ = 距離 ÷ 時間」で考えると、速さを同じにするために、距離と時間を変えるということになります。

  • 解決策①:時間の遅れ
    動いているロケットの中の時間は外から見るとゆっくり進んでいる。これにより、長い距離を進むための時間を稼ぎます
  • 解決策②:ローレンツ収縮
    動いているロケットそのものが、進行方向に縮んでいることにする。これにより、光が進むべき斜めの距離が、そもそも少し短くなります

このように、「時間の遅れ」と「距離の収縮(ローレンツ収縮)」という2つの調整を行うことで、「光の速さは誰から見ても同じ」 という絶対ルールが守られます。
縮むのは「進行方向」だけですので、ロケットが横に飛んでいるなら、縮むのは横幅だけです。ロケットの高さは変わりません。そして、不思議なことに、この現象はお互い様です。あなたがロケットを見ればロケットが縮んで見えますが、ロケットに乗っている人から見れば、今度はあなたが乗っているもの(地球)の方が縮んでみえることになります。どちらかが本当に縮んでいる、というわけではありません。

この効果は、光の速さに近いスピードでなければ現れません。新幹線や飛行機程度の速度では、縮みは原子1個分よりもはるかに小さく、全く検出できないレベルです。なので、一般の人が日常生活で体験することはないですし、人類がその現象を身をもって体験することも、ありえないといえます。

同時の相対性

「同時の相対性」とは、ある人にとっては「同時に」起きた2つの出来事が、その人に対して高速で動いている別の人から見ると「同時ではない(バラバラに起きた)」ように見える、という現象です。つまり、「同時」というタイミングは、誰にとっても同じ絶対的なものではなく、見る人の動き方によって変わってしまう「相対的」なものだということになります。

Aさんが1両編成の列車に乗っているとします。その列車のちょうど真ん中で、前と後ろ(進行方向と進行方向とは逆方向)に向けて光を一度だけ放ちます。その光は、列車の前の壁と後ろの壁に向かって同時に進んでいきます。真ん中から放たれた光ですので、前の壁と後ろの壁までの距離は同じです。光の速さも同じですので、Aさんから見ると、光は前の壁と後ろの壁に「同時に」到着します。

では、駅のホームに立って、その列車を見送っているBさんからみるとどうなるでしょうか。Bさんにとっても「光の速さ」は変わらないので、Bさんの目には、列車の中で発射された光のうち、後ろへ発射された光がまず後ろの壁に到着し、その後に前に発射された光が前の壁に到着するように見えます。

Aさんにとっては「同時」だった出来事(光が前後の壁に到着すること)が、Bさんにとっては「後ろが先、前が後」という「同時ではない」出来事になってしまいました。これが「同時の相対性」です。どちらの言い分が正しいというわけではなく、どちらも正しい事実です。「同時」という概念そのものが、観測者の立場(運動状態)によって変わってしまう、というのがアインシュタインの発見でした。

「同時の相対性」は、私たちの日常感覚とはかけ離れていますが、「光の速さは不変」という宇宙のルールから論理的に導かれる必然的な結果です。この考え方は、時間と空間が別々のものではなく、「時空」という一つのものとして結びついていることを示唆しています。そして、「ローレンツ収縮」や「時間の遅れ」といった他の不思議な現象も、すべてこの「同時の相対性」と密接に繋がっています。

第4回:月もりんごも落ちている?

第4回のテーマは「重力」。ニュートンが発見した「万有引力の法則」は、すべての物体が互いに引き合う力を持つことを示しましたが、なぜ引き合うのかという根本的な理由は説明できませんでした。アインシュタインは、この謎を「重力とは時空の歪みである」という一般相対性理論によって解き明かしました。
番組では、月が地球に落ちてこないのは、地球の重力に引かれながらも、常に前進し続けているためであり、この絶妙なバランスによって地球を周回していることが解説されました。この、地球を周回するために必要な速度を「第一宇宙速度」と呼びます。

  • 万有引力の法則
    2つの物体の間には引力が働くという法則です。それぞれの質量の積に比例し、距離の2乗に反比例します
  • 第一宇宙速度
    地球の重力を振り切らずに、地表すれすれを周回し続けるために必要な速度のことで、秒速約7.9kmです
Next Post Previous Post