お使いのブラウザではJavaScriptが使用できないようです
そのため一部コンテンツは表示されません

スマホ時代の哲学要約|現代人が見失った孤独を取り戻し、豊かに生きるための思考法

広告表示あり

哲学者・谷川嘉浩氏の著書「スマホ時代の哲学」は、現代人が失いつつある孤独の重要性を問い直し、豊かに生き抜くための実践的な思考法を提示しています。スマートフォンが生活に深く浸透し、常に世界と繋がり刺激的な情報に触れられる現代。しかし、この常時接続がもたらすのは、便利さだけではありません。多くの人が抱える漠然とした不安や、自己との対話の喪失といった「モヤモヤ」の正体は何でしょうか。

常時接続が奪う深い思考

谷川氏は、現代社会がインスタントで断片的な刺激に満ちていると指摘します。SNSでのレスバトルや、テンポと分かりやすさを重視したコンテンツの消費は、他者の話に耳を傾けず自分の意見ばかり主張する自己完結の傾向を強めています。スペインの哲学者オルテガが指摘するように、現代人は「人の話を聞かずに、言いたいことだけをただ喋っている」状態にあるといえます。また、スマートフォンが常に提供する刺激は、私たちの「消化しきれなさ」「難しさ」「モヤモヤ」といった、時間とコストのかかる事柄への向き合い方を軽視させます。これにより、小説を読んでいる最中にスマートフォンを手に取ってしまうように、我慢が効かなくなり、深く思考を巡らせる機会が失われているといえます。

失われた孤独と孤立

ドイツの政治哲学者ハンナ・アーレントは一人であることを「孤立(Isolation)」「孤独(Solitude)」「寂しさ(Loneliness)」の3種類に分けました。スマートフォンによる常時接続は、この中で特に「孤立」と「孤独」を私たちから奪っています。

  • 孤立
    物理的に一人きりで、一つのことに集中し没頭する状態。
  • 孤独
    沈黙の中で自らと向き合い、自問自答する姿勢。

寂しさを感じた時にSNSに逃げ込んだり、友人に連絡を取ったりする行動は、一見繋がりを求めているようで、実は寂しさを加速させる装置と化しています。本当の心の傷と向き合うためには、孤独な時間の中でちゃんと傷つくことが必要であり、嬉しい感情でさえも、孤立して自己と対話する時間が自己の豊かさを育むと谷川氏は述べます。

自分の頭で考えない哲学とは

哲学と聞くと、自分の頭で一生懸命考えることと思われがちですが、谷川氏はこれに警鐘を鳴らします。自力思考に固執すると、それは単に自分の意見を再提出しているに過ぎず、多様な思考を自分の中に持てなくなるとのこと。そこで提案されるのが、他者の思考を自分の中に『住まわせる』というアプローチです。偉大な先人たちの知恵や、多様な人々の概念や感性を理解しようと努めること。そのためには、相手の言葉がどのようなイメージで使われているかに注意深くなる必要があります。自分の知っている範囲で安易に解釈せず、まずは、ただ受け入れてみる姿勢が、豊かな想像力と深い洞察に繋がると言います。

モヤモヤと向き合う方法

情報過多の現代では、すぐに答えを求め、曖昧さや不明瞭な状態を避けようとします。しかし、イギリスの詩人ジョン・キーツが提唱した「ネガティブ・ケイパビリティ」とは、結論づけず、モヤモヤした状態で止めておく能力のことです。これは、安易な答えに飛びつかず、不確実性や謎を抱え続けることで、そこから新しい何かを汲み取ろうとする姿勢を指します。このモヤモヤしたものをモヤモヤしたまま抱えておく能力は、何かを生み出す際だけでなく、他者の経験を理解し、人間としての深みを増す上で不可欠な力となります。谷川氏は、現代社会が分かりやすさを重視するあまり、この重要な能力が失われつつあることを指摘します。

退屈を避けない勇気

私たちは少しでも退屈を感じると、スマートフォンを手に取り、刺激的なコンテンツで時間を埋めようとします。しかし、谷川氏は退屈こそが、自分自身を変えるための重要なシグナルであると説きます。無理やりハイテンションを保ったり、多忙に溺れて退屈から目を背けたりすることは、自分が本当に何をしたいのかを見失わせ、時にはメンタルヘルスにも悪影響を及ぼしかねません。この退屈と向き合い、内省を深めるための具体的な方法として、谷川氏が勧めるのは、ゆっくりと一つの作業に時間を費やすことです。コーヒーを淹れる、掃除をする、料理をする、お風呂に浸かるなど、無意識のレベルでできる作業に集中し、隙間時間をスマートフォンで埋めない環境を整えるのです。さらに、評価や時間に追われることなく何かを作る、もしくは育てるという趣味を持つことも重要です。正解のないものに悩みながら向き合うことで、私たちは言葉にできない感覚と対話し、内面の豊かさを育むことができるのです。

まとめ

『スマホ時代の哲学』は、情報過多と常時接続の時代に、私たちがいかにして「心の穏やかさ」と「豊かな内面」を取り戻すかという問いに、哲学的な視点から答えを導き出します。

  • 安易な答えに飛びつかず、モヤモヤを抱え続ける能力。
  • スマートフォンから離れ、自分自身と向き合う孤独な時間。
  • 自分の頭で考えることに固執せず、他者の多様な思考を自分の中に「住まわせる」柔軟な姿勢。
  • 評価に囚われず、何かを作る、育てるといった趣味を通じた自己との対話。

これらは、表面的な繋がりや一時的な快楽に流されがちな現代において、真の幸福や成長に繋がるための鍵となります。情報に振り回されず、自分自身の足で人生を歩んでいくために、本書が提示する「失われた孤独をめぐる冒険」に、参加してみてはいかがでしょうか。