フガシティーの解説|実在気体と理想気体の違いはFugacity?

熱力学の概念である「フガシティー(fugacity)」の解説です。基本的な化学で学ぶ理想気体法則は、なぜ現実世界で機能しないのでしょうか?その理由のひとつの鍵となるがフガシティーです。フガシティーは熱力学モデルを現実世界で機能させるための、いわば『補正された圧力』といえます。この概念は、複雑な実在気体の挙動を正確に記述するための重要なツールとなっています。

理想気体と実在気体

理想気体において、分子は体積を持たず、互いに相互作用しない微小な点として扱われます。この場合、比喩的な表現をすると「圧力計で測った圧力」=「(分子が)外へ飛び出そうとする力」となります。数式で書くと、fがフガシティーで、Pが圧力のとき、f=Pです。しかし、実在気体はより複雑です。圧力を上げたり温度を下げたりすると、実在気体の分子は互いに接近し、分子間力を感じ始めます。分子間力には引力と斥力があり、これらが気体の挙動を変化させます。その結果、ゲージで測定される実際の圧力はP≠fではなくなります。

フガシティーの導入

この問題を解決するために、化学者G.N.ルイスがフガシティーという概念を導入しました。ルイスは理想気体向けに設計された単純で洗練された方程式を、複雑な実在気体にも正確に適用できるようにするために、有効圧力を作り出すことを提案しました。
実在気体の場合、フガシティーと圧力を関連付けるために「フガシティー係数」と呼ばれる係数φが使用されます。この係数が1未満の場合、引力が優勢であり、1より大きい場合は斥力が優勢であることを示します。先述の通り、理想気体の場合、フガシティーはその圧力と正確に等しくなります。つまり、f=φPで、φ=1なら、理想気体f=Pになります。

では、圧力をフガシティーに換算するφというのはどのように表されるのでしょうか?

\[ f=φP \] \[ \ln{φ}=\int_{0}^{P}\frac{Z-1}{P'}dP' \] \[ Z=\frac{PVn}{RT} \]

圧縮因子Zは熱力学データや状態方程式(例:Van der Waals, Peng–Robinson, Redlich–Kwong など)を使って求めます。なお、P'は積分変数で、途中の圧力を仮想的に表す記号です。化学ポテンシャルで定義すると下記のようになります。

\[ μ(T,P)=μ^o(T)+RT\ln{f} \] \[ μ(T,P)=μ^o(T)+RT\ln{P} \]

上の式がフガシティー(実在気体)で、下の式は理想気体です。Pがfに変わっています。

重要性

実在気体が理想気体のように振舞っていて、なおかつ、実在気体も理想気体も同じ化学ポテンシャルを持っている場合、圧力はフガシティーに変わります。これは、化学反応の平衡や相転移を正確に予測するための基本的な概念であり、特に高圧の工業プロセスにおいて重要になってきます。

比喩的な理解

フガシティーは社会的圧力に例えられることもあります。あくまで比喩ですが、広々とした部屋の中にひとりでいると、そこから出たいという圧力はあまり感じないはずです。これは低圧の理想気体に似ています。しかし、部屋が人でいっぱいの場合、たとえば満員電車のようになっていたら、そこから出たくなるはずです。気分の問題ではなく、ぎゅうぎゅう詰めの方が、実際のところ物理的な圧力も高くなっているはずでしょう。しかしながら、もしまわりに家族や友人しかいなかったら、そこから出たいという欲求は低くならないでしょうか。これが、フガシティーを考慮した状態であり、より詳しく言うと、引力が優勢な状態といえます。逆に、部屋がライバルでいっぱいであれば、物理的な混雑以上に、そこから逃げ出したいという欲求は極めて高くなるはずで、これは斥力が優勢な状態といえます。フガシティーは分子に、このような社会的圧力がかかっていると例えることができ、引力と斥力を考慮に入れることで、分子のより正確な尺度となります。

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